2026.10.1

インプラント

上顎のインプラントは難しい?骨が少ない場合の治療法とリスク

上顎(上の歯)のインプラントは、下顎に比べて難易度が高くなりやすいといわれます。ただし、「難しい」は「できない」という意味ではありません。骨が少ない場合でも、サイナスリフトやソケットリフトといった骨を増やす治療を組み合わせることで、インプラント治療を検討できるケースは多くあります。

この記事では、上顎のインプラントが難しいとされる理由、骨が少なくなる原因、骨が足りないときの治療法、注意したいリスクまでを、初めての方にもわかりやすく解説します。

上顎のインプラント治療が難しいとされる理由

インプラント治療は、インプラント体(人工の歯の根)を顎の骨に埋め込み、その上に人工の歯を取り付ける治療です。そのため、インプラントを支える骨の量や厚み、硬さが治療の成否を大きく左右します。上顎は、この骨の条件が下顎より不利になりやすいのが特徴です。

下顎より骨がやわらかく薄い上顎の特徴

顎の骨は、外側の硬い「皮質骨(ひしつこつ)」と、内側のスポンジのような「海綿骨(かいめんこつ)」でできています。上顎は下顎に比べて海綿骨の割合が多く、骨がやわらかい傾向があります。

骨がやわらかいと、インプラントを埋入(骨に埋め込むこと)した直後にしっかり固定されにくくなります。また、インプラントと骨がしっかり結合するまでの期間も、上顎のほうが長くかかるのが一般的です。さらに、上顎はもともと骨の量が少なく、厚みも薄い部分が多いため、インプラントを安定させる土台を確保しにくいことがあります。

上顎の奥歯と上顎洞の位置関係

上顎の奥歯のすぐ上には、上顎洞(じょうがくどう)という空洞があります。上顎洞は鼻の横にある「副鼻腔(ふくびくう)」のひとつで、内側は薄い粘膜で覆われています。

奥歯の根元から上顎洞までの骨が薄いと、通常の長さのインプラントを埋め込むと先端が上顎洞に届いてしまうおそれがあります。このように、骨の性質と上顎洞の存在の2つが、上顎のインプラント治療の難易度を高める主な理由です。

上顎の骨が少なくなる主な原因

上顎の骨は、もともとの体質に加えて、歯を失った後の変化や病気によっても少なくなります。代表的な原因を見ていきましょう。

歯を失った後の骨吸収

歯は、噛むたびに顎の骨へ刺激を伝えています。歯を失うとこの刺激がなくなり、骨は少しずつやせていきます。これを骨吸収(こつきゅうしゅう)といいます。

歯がない状態を長く放置するほど、骨吸収は進みやすくなります。また、入れ歯やブリッジは歯ぐきや周りの歯で人工の歯を支える仕組みのため、骨に直接刺激が伝わりにくく、長く使っているうちに骨がやせることがあります。

歯周病による顎の骨の減少

歯周病は、細菌の感染によって歯ぐきに炎症が起こり、進行すると歯を支える骨を溶かしてしまう病気です。歯周病が原因で歯を失った場合、その時点で骨がかなり減っていることが少なくありません。上顎の骨がもともと薄いことも重なり、インプラントを埋め込む骨が足りなくなる原因になります。

上顎洞の拡大による骨の厚み不足

上顎の奥歯を失うと、骨がやせるだけでなく、上顎洞が下の方へ広がることがあります。すると、歯ぐき側から上顎洞の底までの骨の厚みがさらに薄くなります。上顎の奥歯で「骨が足りない」と言われるのは、このような変化が重なっている場合が多いのです。

上顎の骨が少ない場合のインプラント治療

骨が足りない場合は、骨造成(こつぞうせい)と呼ばれる骨を増やす治療を行ってから、または同時にインプラントを埋入します。上顎の奥歯でよく使われるのが、次の2つの方法です。

上顎洞の底を持ち上げるサイナスリフト

サイナスリフトは、頬側の歯ぐきを切開して上顎の側面の骨に小さな窓を開け、上顎洞の粘膜を持ち上げる手術です。持ち上げてできたすき間に人工骨などの骨の材料を詰め、骨の高さを増やします。

残っている骨がかなり少ない場合や、複数の歯を失っていて広い範囲に骨を増やす必要がある場合に選ばれます。目で確認しながら処置できる一方、傷が大きくなりやすく、骨が安定するまで数か月待つため治療期間が長くなる傾向があります。

インプラント埋入部から行うソケットリフト

ソケットリフトは、インプラントを埋め込むための穴から専用の器具を入れ、上顎洞の底の骨と粘膜を少しずつ押し上げる方法です。すき間に骨の材料を入れ、多くの場合はそのままインプラントを埋入します。

切開の範囲が小さく、腫れや痛みが出にくいのが利点です。ただし、上げられる高さには限りがあるため、ある程度骨が残っているケースに向いています。また、処置する部分を直接見られないため、粘膜を傷つけないよう慎重な操作が求められます。

骨の量と厚みに応じた治療方法の選択

どちらの方法を選ぶかは、主に上顎洞までに残っている骨の高さで判断します。

比較項目サイナスリフトソケットリフト
向いているケース残っている骨がかなり少ない、広い範囲に骨が必要ある程度骨が残っている、1本程度の部分的な不足
処置の方法頬側の骨に窓を開けて粘膜を持ち上げるインプラントを入れる穴から押し上げる
体への負担比較的大きい比較的小さい
インプラントの埋入同時の場合と、骨が安定してからの場合がある同時に行うことが多い

判断の目安となる骨の高さ(ミリ数)は、歯科医院や症例によって異なります。骨の状態によっては、骨の幅を補うGBR法(骨誘導再生法)を組み合わせたり、短いインプラントや角度をつけた埋入で骨造成を避けたりする方法もあります。自分に合う方法は、検査の結果をもとに歯科医師とよく相談して決めましょう。

上顎インプラントで注意したいリスク

上顎のインプラントには、上顎洞が近いことによる特有のリスクがあります。あらかじめ知っておくことで、術後の異変にも早く気づけます。

上顎洞粘膜の損傷

上顎洞の内側はシュナイダー膜と呼ばれる薄い粘膜で覆われています。インプラントの埋入やサイナスリフト・ソケットリフトの際に、この粘膜が破れたり傷ついたりすることがあります。小さな損傷であれば処置中に修復できる場合もありますが、状態によっては手術を中止し、時間をおいてからやり直すこともあります。

インプラント治療後の上顎洞炎

上顎洞炎(じょうがくどうえん)は、上顎洞に細菌が入り込んで炎症が起こる病気で、いわゆる「蓄膿症」のことです。インプラントが上顎洞に突き抜けたり、粘膜の傷から細菌が入ったりすると起こることがあります。

主な症状は、鼻づまり、においのある黄色っぽい鼻水、頬や目の下の痛み、頭が重い感じなどです。片側だけにこうした症状が出た場合は、早めに歯科医院に相談しましょう。治療は抗菌薬による薬の治療が中心で、原因によってはインプラントの除去や手術が必要になることもあります。なお、インプラントが原因で上顎洞炎が起こるケースは多くはありませんが、ゼロではありません。

インプラント周囲の炎症と歯周病

インプラントの周りの歯ぐきや骨に炎症が起こる病気をインプラント周囲炎といいます。歯周病に似た病気で、進行するとインプラントを支える骨が溶け、ぐらつきや脱落の原因になります。上顎の奥歯では、炎症が上顎洞に広がるおそれもあります。

歯周病がある方でも、治療で炎症を落ち着かせてからインプラントを検討できる場合があります。治療後は毎日の歯みがきに加え、定期的なメインテナンスを続けることが、炎症を防ぐうえで欠かせません。

上顎の前歯と奥歯におけるインプラント治療の違い

同じ上顎でも、前歯と奥歯では注意すべき点が異なります。どちらも難易度が高くなりやすい部位ですが、その理由は別々です。

骨の厚みと審美性が重要な上顎前歯

上顎の前歯は、歯を支える骨の幅が薄く、歯を失った後にやせやすい部位です。骨が足りないとインプラントが安定しにくいため、GBR法などで骨を補うことがあります。また、前歯の奥には鼻と口をつなぐ切歯管(せっしかん)という神経や血管の通り道があり、傷つけないよう配慮が必要です。

さらに前歯は、笑ったときや話すときに目立つ場所です。人工の歯の色や形だけでなく、歯ぐきの形や高さまで自然に仕上げる審美性が求められます。仮歯で歯ぐきの形を整えながら進めることもあります。

上顎洞への配慮が必要な上顎奥歯

上顎の奥歯は、すぐ上に上顎洞があるため、骨の高さが足りなくなりやすい部位です。特に、前から6番目の歯(第一大臼歯)のあたりは骨が薄くなりやすいとされています。

また、奥歯は噛む力が強くかかるため、インプラントをしっかり固定することが大切です。骨の高さに応じてサイナスリフトやソケットリフトを組み合わせるかどうかを検討し、上顎洞を傷つけないよう慎重に手術を計画します。

上顎インプラントを検討するときのポイント

上顎のインプラントを安心して受けるためには、治療前の検査と説明がとても大切です。歯科医院で確認しておきたいポイントをまとめます。

CTによる骨の量・厚み・上顎洞の確認

歯科用CTは、顎の骨を立体的に撮影できる検査です。通常のレントゲンではわかりにくい骨の量や厚み、硬さ、上顎洞までの距離、上顎洞の粘膜の状態まで確認できます。上顎のインプラントでは、このCT検査の結果をもとに、インプラントの長さや位置、骨造成が必要かどうかを決めていきます。上顎洞に炎症がある場合は、先に耳鼻科での治療をすすめられることもあります。

骨造成を含めた治療方法の確認

骨造成が必要になると、手術の回数や治療期間、費用が変わります。治療の流れは、一般的にCT検査・診断のあと、必要に応じて骨造成を行い、インプラント埋入、骨と結合するまでの治癒期間を経て、人工歯の装着へと進みます。その後は定期的なメインテナンスが続きます。

説明を受ける際は、骨造成が必要な理由、どの方法を使うのか、全体の期間と費用の総額を確認しておきましょう。あわせて、上顎インプラントや骨造成の治療実績があるか、治療後の保証やメインテナンスの体制についても聞いておくと安心です。

入れ歯を含む治療方法との比較

歯を補う方法は、インプラントだけではありません。

比較項目インプラント入れ歯
噛み心地自分の歯に近い硬い物は噛みにくいことがある
手術必要(骨造成が加わることもある)不要
周りの歯への負担かからない留め具をかける歯に負担がかかることがある
骨への影響噛む刺激が骨に伝わりやすい骨がやせやすい
費用保険適用外で高額になりやすい保険適用のものもある

骨の量が大きく不足している場合や、持病など全身の状態によって手術が難しい場合は、入れ歯などインプラント以外の方法が適していることもあります。それぞれのメリットと注意点を聞いたうえで、自分の生活や希望に合った方法を選びましょう。

まとめ

上顎のインプラントは、骨がやわらかく薄いことや、奥歯の上に上顎洞があることから、下顎より難易度が高くなりやすい治療です。それでも、サイナスリフトやソケットリフトなどの骨造成を組み合わせることで、骨が少ない方も治療を検討できる場合があります。まずはCT検査で骨と上顎洞の状態を確認し、入れ歯などほかの方法とも比べながら、上顎インプラントの治療実績がある歯科医師に相談してみましょう。

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この記事の監修医師プロフィール

川越 亮利 先生

医療法人Saraswati 川越歯科医院 理事長 / 歯科医師 川越 亮利 (Akitoshi Kawagoe)

専門分野:インプラント治療 / 補綴治療(入れ歯・義歯) / 予防歯科

広島大学第2補綴科での臨床研修を経て、海外大学(Indonesia Mahasaraswati University)にてインプラント科の客員講師を務めた経歴を持つ歯科医師。
国内の学会活動に加え、海外での歯科ボランティアや技術指導にも精力的に参加。現地の限られた環境下での治療経験や、学生への指導経験を活かし、難症例にも対応可能な「長持ちするインプラント治療」を探求し続けている。
現在は広島市中区江波にて、地域医療と世界レベルの技術の融合を目指して診療を行う。

【主な所属・資格】
  • Mahasaraswati University 補綴科・インプラント科 元客員講師
  • KISS(Kansai Implant Study Society)所属
  • 広島大学第2補綴科 臨床研修医 修了
  • 月星先生CEセミナー アドバンスコース修了

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